宮大工と、パン職人~「棟梁」を読んで~

2013年05月15日|カテゴリー: 自然栽培×天然菌

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宮大工である小川三夫さんの著書・「棟梁」 を読んで、夫婦ともに、非常に感銘を受けています。

 

この本は、私達タルマーリーへの、最大の応援歌…そう思います。

 

いつもは女将の私がブログを更新していますが、今回は久しぶりにオーナーシェフの渡邉格の文章です。↓

 

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私と妻は、同じ本を読まない。
読んだ本について、お互い自分の解釈を通して相手に伝える。
それを聞いて納得して、同じ本を読まなくてもいいか…と思う。
しかし「これは!」という本については、相手に無理やり読ませる
取り決めたわけではないが、ここ10年ほど、そのようにしてきた

 

そして昨日、妻から渡された「棟梁」という本をを読んだ。
宮大工の本だ。

 

職人の心得から親方のあり方まで、仕事を通じて育っていく様。

 

職人になり立ての時に読んだら、どう思ったか?
独り立ちした時に読んだら、どう思っただろうか?

 

私自身、多くの反省点を持ってこの本を読み進めた。
開業して6年目、未だ一人も職人を排出できずにいる、オーナーとしての私の反省である。
パン屋タルマーリーでのパン修業を卒業したという人間は未だいないし、大抵は半年以内でやめている。
その理由もわかる。
私自身の問題だとはわかっていたが、それが再確認できた。

 

1人だけ、タルマーリーの製造現場で1年働き続けてくれた女性がいた。
彼女の働きにより、パン屋も良くなっていった。
でも、まさにこれから!というとき、彼女は辞めてしまった。
残念だった。

 

しかし、彼女のおかげもあり、働く環境もよくなり、ここ最近は素晴らしい人材が入ってくるようになった。
タルマーリー全体として、素晴らしい仕事ができるようになってきている。
これからはここで、良い職人が育っていく…そんな実感がある。

 

丁度そんなときに、この本に出会った。

 

人生には、丁度そんな時に出会う…というタイミングがある。
今、この本に出会ったことは、偶然ではなく、必然なのかもしれない。

 

パン作りは建築に通じるモノがあるな・・・と思う。

 

パン作りをする人間として、建築から学ぶことは多い。
建築を追求していくと、先人たちの技にたどり着く…というのも、共感できる。
そして驚くことに、最終的には環境問題による壁にぶち当たる…というのだ。

 

まさに、天然菌のパンを追求する私達が、原料の調達に四苦八苦しているのと同様である。

 

ところで、伝統的な技の伝承の難しさを「宮大工」という世界で考えると、一般的に想像しやすいと思う。

 

現代人は、学校教育を経て職業選択が増えたことや、簡単にお金を稼ぐ方法を知ってしまったことで、精神的にも肉体的にも大変な苦労して伝統的な技を覚えることが、非常に難しくなっている。
また、機械や道具が発達したおかげで、加工された木だけを扱う安易な仕事が蔓延し、木の性質を知らない職人が増えているらしい。

 

食の世界にも、似たようなものを感じる。

 

しかし、それ以上に驚くことは、技が伝承されたとしても、寺社などの建築に使える「木」がないということだ。
樹齢千年以上の木が生き残る環境が、今の日本にないのだという。

 

このような話を聞くと、「持続可能」とは何なのかと…考えてしまう。

 

戦後は、経済的な観点からの「持続可能」が追求された。
つまり、
「古臭いやり方は、食べていけないから廃れて無くなった=持続不可能」
という論調が一般的になった。

 

確かに、この世から無くなってしまえば、持続可能とは言えない。
そういった意味で、昔からの職人的な仕事は、戦後から経済的に持続できなくなったことは認める。

 

しかし、今でもゼロにはなっていない。
細々でもまだ続いているのだ。
そして、そういう仕事こそ、自然環境を守りながら確かに続いているのだ。

 

「経済を含めた持続可能」が、「経済だけの持続可能」になり替わった現代。

 

日本という国は、自然環境も含めて2000年近く続いてきた職人技を、戦後100年もたたないうちに“科学の発展”に伴って、ほとんど手放した。

 

ここから出る答え…。
自然環境を破壊してもなお、私達の生活は半永久的に持続していくのだろうか?
「持続可能」な仕事とは、最低でも、その周りの環境と共に何百年と続いて初めて言える言葉ではないか?

 

これからの仕事は、経済的な観点だけでなく、「自然環境を含めた持続可能」を、経営を通して作っていかなければならない…と考える。
だからこそ、自然環境を守ってきた昔からの仕事というモノを見直さなければならない。
職人、百姓…。
1000年単位で続いてきたやり方こそ、真の答えだと思うのだ。

 

1300年の技を伝承してきた宮大工が、「コンクリートよりヒノキの方が強い」という言葉を吐く。
歴史の荒波を乗り越えてきたものだけが、「持続可能」を証明するものだと感じている私には、力強い言葉だ。

 

誤解のないように書いておくが、私は科学全般を否定するものではない。
先人達の経験を自分のモノにしたうえで、より発達した機械や道具は大歓迎である。
それは「庶民の利益」につながるからである。

 

しかし、「企業の利益」のために、先人たちの知恵を皆殺しにして“科学技術”に置き換える…ということが、環境破壊を生んできたことに怒りを感じるのだ。

 

宮大工は、何千年も前に建てられた建築を通して、古代の職人と対話するという。

 

そんなパン職人は、今の日本にどれくらいいるだろうか?
私も、古代の人々と会話できるパン職人になりたい。

 

「持続可能」を求めて、天然麹菌の採取について、掘り下げる。
室町時代に思いをはせ、古代人と対話する。

 

現在を未来に繋げる技が、過去から確実に伝えられているのだ。

 

こんな時代に、「技」は庶民にとって最後の武器だ。

 

そうして先月から、パン屋タルマーリーでは、丁稚という制度を見直し、研修制度をスタートさせた。
これからタルマーリーで研修したいと思う人々にも、ぜひこの本を読んでみてほしい。

 

棟梁」 小川三夫・著 文春文庫